1. 結像とピント
カメラを使って画像を得るためには、撮影レンズにより物体からの光を撮像センサ上に像として結ぶ、すなわち結像する必要があります。ここでは結像について改めて確認したいと思います。
1.1. 点の結像とF値
撮影レンズによる結像では、第一に“点が点として結像する”ことが基本的な性能となります。
ご存じのとおり点とは“位置だけを持ち、長さや面積を持たない”ものですが、仮に点とみなせる光源を“理想的なレンズ”で結像すると、センサからの出力画像では点、実際には限りなく狭い範囲である一画素のみ輝度を持つことになります。点光源としてよく例えられるのがシリウスなどの恒星です。なお太陽は比較的距離が近く、面積があるように見えるため点光源とは云えません。
また、“理想的なレンズ(理想レンズ, Ideal Lens)”とは次の性質を持つものと云えます1。
- 物体が直線のときは像も直線である。
- 物体が平面のときは像も平面である。
- 光軸に垂直な平面の像は光軸に垂直である。
- 光軸に垂直な平面内の図形とその像はお互いに相似である。
ただし、光軸に垂直でない平面上の物とその像は必ずしも相似ではない。
実際のレンズでは光学的な誤差のため上記の性質を得るのは難しいのですが、このずれのことを“収差”と呼びます。
さて、ここで“理想レンズ”による点光源の像の様子を見てみたいと思います。ここでは各F値の理想レンズによる光軸上の点像を“点像強度分布(PSF:Point Spread Function)”で示します。
この図では、横軸に像高をとり、光軸(像高=0)を中心に±6.0μmで示しました(1.2μm/DIV)。また縦軸は強度を示しますが理想的な結像、且つ最適な像面位置での評価のため最大値が1.0となっています。
これによると、面積(あるいは長さ)を持たない点光源が、理想レンズでもF2では直径約2.7μm、F2.8では約3.8μmに結像し、F4.0では約5.4μm、F5.6では約7.5μmに拡がっていることが判ります。この拡がりは回折と云う光の波動的性質によるもので、レンズのF値により絞り込むことのできる点像の大きさの限界を示しています。これは一般に”小絞りぼけ”と呼ばれる現象で、高精細撮像センサの能力を引き出すための目安になります。
1.2. ピント
前項で示したPSFは点像が最も点となる位置、所謂“ベストピント”の位置に撮像面を置いた場合を示しましたが、撮像面の位置が前後に動いた場合(焦点はずれ、Defocus)はどうなるのでしょうか?
ここではF2.0の場合のDefocus状態を示してみます。(理想レンズですので、正負方向(±方向)でのPSFは同じとなります。)
この図で示されるように、撮像面の位置がベストピントの位置から離れるほど、強度は弱まり、且つ点像の大きさが拡がります。このことはコントラストが低下したとも云えます。
さて“ピンぼけ”とは文字通り“ピントがぼけた”状態を云い、点像が拡がり強度が低下した状態を指します。しかしながら、ぼけ具合の程度についてはカメラの利用目的や画像処理の方法で基準が異なり、一概には決められません。次項ではぼけの基準を含め、本書のテーマである“被写界深度”について考察いたします。
2. 被写界深度とは
2.1. 被写界深度
一般的に“被写界深度”については、主に写真撮影用として説明が為されていますが、当社技術資料2では“焦点深度”と併せ次のように解説しています。
- 撮影レンズは、物体を像として結ぶ働きをしますが、この時“点を点として結像させる”必要があります。直感的にピントの合う点は一点であり、そこから離れるにつれ”ぼけ”が大きくなることが想像できると思います。しかし実際のカメラシステムでは、光軸に沿った奥行き方向でみると、ピントの合う範囲は一点ではなく、ピントがぼけていないと見做せるある程度の幅があり、これを“焦点深度”といいます。
- “焦点深度”はカメラ内部の撮像センサ近傍でのものですが、被写体側にもピントがぼけていないと見做せるある程度の幅があり、これを“被写界深度”といいます。
2.2. 被写界深度と許容錯乱円径
“被写界深度”を算出する際に使用する変数として“許容錯乱円径”があります。ここでいう“錯乱円”とは、レンズにより点が結像された際の円形の像のことですが、ぼけとして認識できない最小の大きさを特に“許容錯乱円径”といいます。
写真業界では、デジタルカメラが主流である今日においても、銀塩フィルムと同様に、“ある大きさの印画紙にプリントし、ある距離において目視で鑑賞する”ことを前提とした許容錯乱円径の値が一般的に使われています3。しかしマシンビジョンでは、各画素のデータを用いて画像処理を行うことから写真同様に目視を基準とはできず、許容錯乱円径は撮像センサの“画素ピッチ”、あるいは“エアリーディスク径”といわれるレンズの光学的な結像限界で決まり、“画素ピッチ”、あるいは“エアリーディスク径”の大きい方が“許容錯乱円径”になります
これにより算出した被写界深度は、センサが“ぼけの違い“を認識できない奥行きを意味しておりますが、この結果は最も厳しい(浅い・狭い)条件を示している量であり、これより外れた場合でも、必ずしも被写体の特長が判断出来なくなるほどぼけている状態ではありません。
3. マシンビジョンにおける被写界深度の考えかた
3.1. コントラストと分解能
マシンビジョン用画像の要件として、“コントラスト”と“分解能(解像力)”があります。
“コントラスト”とは画像において明るい箇所(白)と暗い箇所(黒)との明暗の差のことを云い、コントラストの高い方が被写体の特長を判断しやすくなります。
また“分解能”は少し離れた2点が分離して見える最も近い限界のことを云いますが、分離して見える目安としては、カメラ出力画像において10%程度のコントラスト(MTF)が必要と云われています5。
3.2. 空間周波数と被写界深度
白黒縞の単位長さあたりの周期を空間周波数といい、“本/mm”や“lp/mm”の単位で示されます。
マシンビジョンシステムの光学特性としては、一般に空間周波数が高く(値が大きく)なるとコントラストが低下する特性があり、細かい縞ほど明暗差が少なくピントのぼけを感じやすいということになります。このことは、粗い縞ほどぼけの影響が少なくパターンを認識しやすいということを意味しています。
マシンビジョンにおける被写界深度は、先に述べた“画素ピッチ”や“エアリーディスク径”による許容錯乱円径による値が最も浅い深度となります。しかしながらマシンビジョンにおける殆どの用途では、画素ピッチより低い空間周波数が画像処理に用いられており、実際には“許容錯乱円径”を用いた計算値より深い被写界深度が得られていると云えます。
【参考】F値・DefocusによるPSFの変化
理想レンズにおけるF値、及びDefocusによる点像強度分布(PSF)の変化を示します。